
「手順通りにやっているのに、FMEAが実際の不具合防止に結びつかない」――そんな声を聞くことは少なくありません。
多くの現場では、FMEA(故障モード影響解析)が“提出のための帳票”に変わり、本来の目的である「設計判断の支援」から離れてしまっています。
問題の本質は、手法ではなく“使い方”にあります。
属人化、主観的評価、過去の知見が引き継がれない運用──これらを放置すれば、どんなに丁寧に実施しても成果は出ません。
本記事では、FMEAが形骸化する原因を整理し、
それを“知識を活かす仕組み”へと再設計するための実践的アプローチを解説します。
さらに、AIエージェントが過去のFMEAやノウハウを横断的に探索・学習することで、
「止まった帳票」を「動く知識プラットフォーム」に変える新しい可能性についても紹介します。
FMEAを手順通りにやっているのに機能しない──FMEAが形骸化する3つの理由
FMEA(故障モード影響解析)は、設計段階でリスクを事前に洗い出すための重要な仕組みです。
それにもかかわらず、「ちゃんとやっているのに効果が見えない」「更新しても実際の不具合に反映されない」という声が後を絶ちません。
問題は、担当者の努力不足ではなく、運用構造そのものにあります。
ここでは、FMEAが形骸化してしまう3つの典型的な原因を掘り下げて見ていきます。
FMEAの目的が「提出すること」になっている──FMEAが“管理資料”に変質する構造
多くの企業では、FMEAが「品質マニュアル上の提出義務」として扱われています。
この運用体制では、「リスクを分析して設計に活かす」よりも、「期限までに提出する」ことが目的になりがちです。
例えば、設計プロジェクトの最終段階で「FMEAを提出してください」と品質保証部門から求められるケース。
その時点では設計内容も固まり、リスク洗い出しを新たに行う意味がほとんどなくなっています。
結果として、FMEAが“事後報告書”のような扱いになってしまうのです。
さらに、提出物としての側面が強いと、設計チームは「上から求められた形式」を重視するようになります。
チェック欄を埋め、スコアを入れ、コメントを添えて完了。
形式的には整っていても、そこに「なぜそう判断したのか」という思考の痕跡が残らない。
これが、FMEAを形だけの帳票にしてしまう最大の要因です。
本来、FMEAは「設計判断の裏付け資料」であり、意思決定に使われて初めて意味を持つツールです。
提出義務を果たすための書類に留めてしまうと、目的と手段が逆転します。
この構造的な目的の錯誤が、FMEAの形骸化を生み出しているのです。
FMEA作成の属人化と経験依存──知見が“引き継がれない”FMEA
次に挙げられる問題が、属人化です。
FMEAは、現場経験のあるベテラン設計者ほど上手に書けます。
逆に、若手や新任者は「どの故障モードを想定すればいいのか」がわからず、
結局は過去のFMEAを流用するか、他部署の例をコピーすることになります。
これが積み重なると、FMEAの内容は徐々に「何となく残っている過去のテンプレート」になっていきます。
リスクの想定根拠が文書内に残らず、「なぜその数値にしたのか」「どうしてその故障を選んだのか」が不明瞭なまま継承されてしまう。
ベテランが異動・退職すると、そのFMEAは“読めても理解できない資料”になります。
属人化の根本原因は、FMEAが「個人の経験に頼る設計支援ツール」として扱われている点にあります。
作業としては体系的に見えても、判断基準やリスク想定の背景が共有されていない。
つまり、「チームで作るべきドキュメント」が「個人の記録」にとどまっているのです。
数値評価の曖昧さ──“主観ベースのRPN”が設計判断を鈍らせる
FMEAでリスクを数値化するRPN(Risk Priority Number:リスク優先数)は、
重大度(S)・発生度(O)・検出度(D)の3つを掛け合わせて算出されます。
一見すると客観的な指標のように見えますが、実際の現場ではこのスコアが極めて主観的に決められているケースが多いのです。
たとえば、発生度を「4」とする根拠が人によって異なり、
「過去に数件あったから4」と判断する人もいれば、
「設計変更を行ったから2まで下がる」と評価する人もいます。
また、検出度を「7」と記入しても、それが「工程検査の限界」なのか
「評価方法の未確立」なのかが分からない。
つまり、スコアの数値そのものが曖昧で、議論の土台として使えないのです。
RPNの数値を見ても「どの項目を優先的に対策すべきか」が判断できず、
最終的には「とりあえず高い順に対応する」といった形式的なリスク対応に陥ります。
この曖昧さの背景には、評価基準を定義する仕組みが組織として整っていないことがあります。
部署ごと、担当者ごとに判断基準が異なれば、FMEAの横比較は不可能です。
結果として、FMEAは“スコアの体裁は整っているが、意思決定に使えない表”になってしまうのです。
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FMEAを“活きた道具”に戻すため運用とは?
FMEAを形骸化させないために重要なのは、仕組みの設計です。
ここでは、FMEAを“作るだけの資料”から“考えるための仕組み”へと再構築するための3つの運用設計を解説します。
FMEAを「提出物」から「判断基盤」へ──過去を参照して始める設計へ
まず必要なのは、FMEAをプロジェクトごとに“作って終わり”の資料から、
次の設計が参照するための基盤へと位置づけを変えることです。
現在、多くの現場ではFMEAが提出書類の一部として扱われています。
しかし、最も価値を持つのは“次に似た設計を行うとき”です。
同じ構造、同じ機能を扱うなら、そこには既に「過去のリスクと対策の記録」が存在しているはずです。
それらを活かすためには、
- FMEAを設計プロセスの入口で参照できるようにする
- 類似製品・類似構造のFMEAを簡単に検索できる状態をつくる
- 新規FMEAをゼロベースで作らず、「前回からの差分」で考える文化を根づかせる
といった体制が欠かせません。
つまり、“作ること”よりも“探すこと”を効率的に行う。
これにより、FMEAは「報告のための資料」から「設計のスタート地点」に変わります。
この「探せる状態」を支える仕組みとして、後章で扱うITの整備が有効ですが、
根底にあるのは、“過去を参照することを前提とした運用設計”です。
属人化を防ぎ、“判断の理由”を残す──再利用できるFMEAをつくる
もうひとつの重要な視点は、「他者が読んで理解できるFMEAをつくる」ことです。
多くのFMEAが再利用できない理由は、リスク評価の根拠が残っていないからです。
たとえば「発生度=4」と書かれていても、その理由が文書内に示されていなければ、
次の設計者は判断の再現ができません。
結果として、「何となく同じ数値を引き継ぐ」運用になり、
FMEAは経験の積み上げではなく、ただの更新作業になります。
属人化を防ぐには、FMEAを“チームで議論して残す”形に変えることが重要です。
- 設計・品質・製造メンバーが共同でFMEAを作成し、判断理由をコメントとして残す
- レビュー段階で「なぜこの故障モードを選んだのか」を明確にし、 根拠を他部門にも共有する
- 判断の履歴を残し、過去の議論を後から追える状態にしておく
こうした仕組みがあると、FMEAは“単なる記録ツール”から“知識を受けつぐ媒体”になります。
感覚評価からデータ評価へ──過去の結果を見て判断する体制を作る
FMEAのもう一つの形骸化要因は、リスク評価が担当者の経験や勘に頼りすぎていることです。
同じ故障モードでも、担当者が変わると評価スコアが変わってしまう。
このバラつきを抑えるためには、過去の結果を判断の材料として使う体制が不可欠です。
たとえば、
- 過去の不具合履歴を整理し、「発生度」の基準を定量的に定める
- 試験データや品質コストなどを参照し、「重大度」や「検出度」の根拠を補強する
- 以前のFMEAのスコアと対策効果を比較し、判断の妥当性を検証する
このように、評価を“過去の事実”に基づかせると、
FMEAが「担当者の感覚」でなく、「組織としての経験知」で動くようになります。
その際にITツールを使えば、過去のFMEAや試験記録を横断的に探し、
似たリスク構造を自動で提示してくれるような支援も可能です。
しかし、それはあくまで補助であり、
核となるのは「判断の根拠を再利用する」という発想です。
FMEAを“探せる・読める・引き継げる”仕組みにする
FMEAを再生させる本質は、効率化でも自動化でもありません。
それは、「知識を失わない設計のやり方に変える」ことです。
つまり、
- 過去のFMEAを簡単に探せる
- そこに判断の理由が残っている
- 新しい設計で再利用・比較できる
この3点が揃って初めて、FMEAは“成長する仕組み”になります。
FMEAを「過去の知見を活かし、品質を向上させる」ツールとして活用するためには?
過去のFMEAを探して活かす文化が整ってきたら、
次に考えるべきは「どうすれば過去の知識をもっと早く、漏れなく見つけられるか」です。
多くの現場で直面する課題は、過去のFMEAやトラブル報告が散在しており、
必要な情報を探すだけで膨大な時間がかかることです。
ファイルサーバー、共有フォルダ、紙資料、メール添付──情報は存在するのに、人が探せない。
ここで有効なのが、近年注目される AIエージェント というアプローチです。
単なる検索ツールではなく、過去の知識を「見つけ出し、理解し、再構成して提示する」存在。
FMEAの形骸化を根本から防ぐ、次世代の知識運用の要となる仕組みです。

佐取 直拓
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まとめ:FMEAを“形式的な記録”から“未来へつなぐツール”へ
ここまで見てきたように、FMEAが形骸化してしまう背景には、
「作ることが目的化し、使うための仕組みが欠けている」という構造的な問題があります。
形だけの手順を守っても、
過去の知見が探せず、判断の根拠が引き継がれなければ、FMEAは“静止した表”で終わってしまう。
しかし逆に、過去を参照し、議論を残し、データに基づいて更新する仕組みを整えれば、
FMEAは確実に“生きた道具”として現場を支えるようになります。
そして、その知識循環を加速させる存在がAIエージェントです。
AIエージェントは、通常の検索では見つけられない情報を横断的に拾い出し、
過去のFMEA・試験報告・品質データなどから関連知識をつなぎ合わせる。
さらに、新しく作られたFMEAや対策報告を学び続けることで、
“知識を増やす”だけでなく“知識を成長させる”仕組みを組織の中に根づかせます。
この「人が考え、AIが探し、また人が判断する」循環ができれば、
FMEAは単なる文書管理から知識マネジメントの中枢へと進化します。
ただし、その前提となるのは、人が行う“知識の整地”です。
AIが理解できるように、過去のFMEAを整理し、フォーマットを整え、
判断の理由をきちんと残す。
この人の手による準備こそが、AIの力を最大限に引き出す基盤になります。
FMEAを形式から実践へ。
過去を未来へつなげる“知識の循環”を、今から動かしていきましょう。
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