工程FMEAとは?工程品質を底上げする手法と注意点を解説!

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工程FMEAとは?

製品不良の原因をたどると、設計上のミスではなく、製造工程のばらつきに行き着く——そんな経験はないでしょうか。
いくら設計が正しくても、「作り方」に潜むリスクを見抜けなければ、量産の安定は実現しません。

近年、品質要求の厳格化と工程の複雑化が進む中で、
トラブルを“起きてから直す”のではなく、“起きる前に潰しておく”ための思考法として、
工程FMEA(Process FMEA)が重要となります。

工程FMEAは、製造現場で発生しうる不具合を体系的に洗い出し、
リスクの高い工程から順に対策を講じていく未然防止の仕組みです。
単なる品質管理表ではなく、「設計と現場をつなぐリスクマップ」であり、
品質づくりを“人の勘”から“構造的な判断”へと進化させる実践ツールでもあります。

設計・生産技術・品質保証が一体となって“より良い製造品質”を設計するために、
今あらためて工程FMEAを見直す価値を、一緒に掘り下げていきましょう。

工程FMEAの役割:他のFMEAとの違いを整理する

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis/故障モード影響解析)は、製品や工程に潜むリスクを予測・管理する手法です。

ただし、FMEAにはいくつかの種類があり、それぞれ目的と着眼点が異なります。

  • 設計FMEA(Design FMEA): 製品や部品の設計段階で、構造・機能・材質などの「設計上のリスク」を分析します。 例:構造強度が不足して破損する、材料選定が不適切で腐食が起きる など。 →「作る前に壊れない設計をする」ことが目的です。
  • 工程FMEA(Process FMEA): 製造ラインや組立工程など、「製造過程でのリスク」を洗い出す手法です。 例:締付けトルクのばらつき、位置決めズレ、異物混入、検査漏れなど。 →「作る工程で不良を出さない」ことが目的です。

つまり工程FMEAは、設計が正しくても量産で品質を崩さないための最後の砦です。

設計FMEAが“紙の上の品質”を守るのに対し、工程FMEAは“現場の実品質”を担保します。
両者をつなぐことで、製品ライフサイクル全体の品質保証が完成します。

工程FMEAの目的:不良ゼロと安定生産のための「未然防止」

工程FMEAの最大の目的は、工程内で発生する不具合を「起こる前に」防ぐことです。
不良が発生してから対策を打つ“対症療法型の品質管理”では、コストも手戻りも膨らみます。

工程FMEAは、その前段階で「どんな失敗が起こりうるか」「その影響はどれほどか」を体系的に分析し、
リスクの高い要因から先に手を打つ“予防型の品質保証”を実現します。

さらにもう一つ重要な目的は、工程設計の妥当性をチームで共有すること
工程FMEAは単なる表作成ではなく、製造・設計・品質保証・購買など、
関係部門が一堂に会してリスクを議論する「共通言語」として機能します。

これにより、

  • 設計意図と製造現場の理解ギャップを埋める
  • 品質基準の判断を定量的に行える
  • 改善活動の優先順位を明確にする

といった効果が得られ、属人的な品質管理から脱却できます。

工程FMEAのメリット:現場が変わる4つの効果

① 不良の未然防止

工程ごとに「起こり得る不具合」「原因」「影響」を洗い出すことで、
潜在的なトラブルを設計段階で潰すことができます。
結果として、立ち上げ後の市場クレームや手戻りが激減します。

② 作業標準や検査計画の質が向上

FMEAでリスクを分析する過程は、そのまま標準作業の見直しにつながります。
特に高リスク箇所には「ポカヨケ」「工程内検出」「トレーサビリティ」などの改善が導入され、
現場の安定性が向上します。

③ 関係部門間の情報共有がスムーズ

設計・生産技術・品質保証などが共通フォーマットでリスクを議論できるため、言葉のずれが減り、意思決定がスピードアップします。

また、海外工場や外注先との品質打ち合わせにも使える共通言語になります。

④ 改善活動の優先順位づけができる

工程FMEAでは、「重大度(S)」「発生頻度(O)」「検出性(D)」を掛け合わせた
RPN(リスク優先度数)でリスクを数値化します。
これにより、主観ではなく客観的な根拠で
「どこから手を打つべきか」を判断できます。

工程FMEAの注意点:形骸化を防ぎ、現場で活きる3つの心得

工程FMEAは正しく運用すれば非常に強力なツールですが、
形だけで終わらせてしまう企業も少なくありません。
以下の3つを意識すれば、
“机上の空論”ではなく“実用的な改善ツール”に変わります。

① 「書くこと」より「考えること」に価値を置く

多くの現場では「FMEAシートを提出すること」が目的化しています。
チェックシートを埋めるだけでは、リスクの本質に辿り着けません。

重要なのは、チームで議論する時間を確保し、
工程を観察しながら仮説を立てること。

会議室ではなく、現場の真横でリスク分析を行うほうが、断然精度が上がります。

② 評価の一貫性を保つ:S・O・Dを“共通言語”に

部門や拠点ごとにS・O・Dの点数基準が違うと、RPNの意味がなくなります。
「重大度7って何を指すのか?」という疑問が生まれる時点で、FMEAが比較不能になります。

そこで、企業として共通の点数基準表(ガイドライン)を定めることが必須です。
教育とレビューを定期的に行い、判断のブレを修正していきましょう。

また、点数付けは一人の担当者で完結させないこと。
複数部門(設計・製造・品質)のクロスレビューにすることで、主観の偏りを防げます。

③ 正しく機能させるには「過去の情報」を抜け漏れなく用意し、選択すること

工程FMEAが正しく機能しない最大の理由は、判断の前提となる情報が抜け落ちていることです。
どれだけ丁寧に分析しても、入力情報に漏れや偏りがあれば、
リスク評価も対策も“的外れ”になります。

重要なのは、過去のデータをもれなく判断材料にすること
不良解析、工程異常、設計変更、検査実績――
これらを一つでも参照し忘れると、FMEAの信頼性は大きく揺らぎます。
情報を集める段階で「過去に似た事例はないか」「どの条件で再発したか」を確認することが、
正しいリスク判断の出発点です。

一方で、集めた情報をそのまま並べるだけでは意味がありません
FMEAで重要なのは、“どの情報を採用し、どれを脇に置くか”という選択の精度です。
信頼できるデータを根拠にし、曖昧な推測は明確に区別する。
そうすることで、表の一行一行が「再現性のある判断」に変わります。

また、FMEAを運用していく中で情報を更新し忘れると、
最新の知見が反映されない“古い判断”が残ってしまいます。
工程変更・設備入替・材料ロットの変更などが起きた際は、
必ずFMEAの記載を点検し、整合性を取る仕組みを持ちましょう。

FMEAの精度は、情報の量ではなく、網羅性と選択の質で決まります。
過去データをもれなく確認し、その中から“使うべき情報”を正確に選ぶ。
この一手間が、FMEAを“書類”から“判断ツール”へ変える分岐点です。

ミラリンク代表
佐取 直拓

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まとめ:FMEAを「書く活動」から「判断を支える仕組み」へ

工程FMEAは、不良が起きてから対策を考えるのではなく、
起こる前に防ぐための思考の型です。

設計段階では見えなかった工程のリスクを見える化し、
チームで共有することで、品質を“狙って作り込む”ことができます。

しかし、FMEAの本質は表を完成させることではありません。

重要なのは、どれだけ正確な情報をもとに判断しているかという点です。

過去の不良、工程異常、設備条件、設計変更——
こうしたデータをもれなく集め、根拠のある情報を基に評価する。
そして、その中から信頼できる要素だけを選び抜き、最新の状態に保つ。

この「情報の精度と更新の仕組み」こそが、FMEAを形骸化させない最大の鍵です。

工程FMEAは、設計と現場、過去と現在をつなぐ“品質の翻訳者”のような存在です。

一度作って終わりではなく、工程の変化とともに常に呼吸する。

そうして磨き続けることで、FMEAは単なる書類ではなく、
判断を支える“生きた知識ベース”に育っていきます。

最後に覚えておきたいのは、FMEAの目的は「完璧な工程を作ること」ではなく、「起こりうるリスクを常に見直せる組織であり続けること」。

それが、不良ゼロと安定生産を両立する最短の道であり、
ものづくり現場を次の品質ステージへ押し上げる力になります。

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