設計FMEAとは?設計段階で不良を防ぐための思考とポイント

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設計段階でのミスは、量産後に発覚すると取り返しがつきません。
だからこそ今、設計の中でリスクを見抜き、構造的に防ぐ力が求められています。
その中心にあるのが、設計FMEA(Design FMEA)です。

設計FMEAは、不具合を並べる表ではなく、設計者が「なぜこの形にしたのか」「どんな条件で壊れ得るのか」を整理し、
設計意図と判断根拠を共有するための思考ツール。
工程FMEAが“作り方”を安定させるものなら、設計FMEAは“考え方”を安定させるための手法です。

この記事では、設計FMEAの本質と実践ステップ、
そして現場で形骸化させずに運用するためのポイントをわかりやすく整理します。
設計品質を、後からではなく“最初から作り込む”ためのヒントとして活用してください。

設計FMEAとは:設計段階でリスクを見抜くための思考ツール

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis/故障モード影響解析)は、製品や工程に潜むリスクを予測・管理する手法です。

ただし、FMEAにはいくつかの種類があり、それぞれ目的と着眼点が異なります。

  • 設計FMEA(Design FMEA): 製品や部品の設計段階で、構造・機能・材質などの「設計上のリスク」を分析します。 例:構造強度が不足して破損する、材料選定が不適切で腐食が起きる など。 →「作る前に壊れない設計をする」ことが目的です。
  • 工程FMEA(Process FMEA): 製造ラインや組立工程など、「製造過程でのリスク」を洗い出す手法です。 例:締付けトルクのばらつき、位置決めズレ、異物混入、検査漏れなど。 →「作る工程で不良を出さない」ことが目的です。

その中でも設計FMEA(Design FMEA)は、
製品や部品の設計段階で「構造・機能・材質」に潜むリスクを見抜くための手法。つまり、“製造前の品質保証”を担うフェーズです。

設計FMEAの目的は単に不具合をリストアップすることではありません。
設計者が自らの設計意図を言語化し、

「この形状で何を実現しようとしているのか」
「どんな条件で壊れ得るのか」
「どうすれば構造的に防げるか」

をチームで議論することで、設計判断の精度を高めることにあります。

言い換えれば、設計FMEAは
「どんな壊れ方をするかを設計者が先に想像し、構造で防ぐ」ための思考の型です。

設計FMEAの本質:図面の中に“未来の故障”を描く

設計FMEAの目的は、単に不具合を洗い出すことではありません。
設計者が、自らの設計をどこまで理解できているかを確認するプロセスです。

製品の品質は、図面を描いた瞬間におおよそ決まります。
その段階で構造や材質、環境条件のリスクを想定できていなければ、
試験や工程でどれだけ調整しても、根本的な不良は防げません。

FMEAは「想定の幅」を広げるための思考ツール

多くの設計で問題になるのは、“想定外の条件”です。
設計FMEAは、この「想定の幅」を体系的に広げるためのツールです。

  • どんな使用条件で性能が低下するか
  • どの部分が繰り返し荷重に弱いか
  • 温度・振動・経年などの要因がどこに集中しやすいか

こうした問いを設計段階で整理し、設計が成立する条件と崩れる条件を明確にします。

FMEAとはつまり、設計を「壊れないようにする」のではなく、
「壊れる条件を知った上で、構造的に余裕を持たせる」ための検討手法です。

因果で説明できる設計にする

設計FMEAでは、故障モード(Failure Mode)だけでなく、
その原因(Cause)と影響(Effect)を明確に関連づけます。

  • ボルトが緩む → 温度変化による伸縮/座面変形
  • シール不良が起きる → 組立時の圧縮率設定不適切/材質硬度過大
  • 破損が発生する → 応力集中/コーナーR設定不足

この「なぜ起きるか」「どう影響するか」を因果で整理することで、
設計判断が主観ではなく論理で説明できるようになります。
言い換えれば、設計FMEAは“説明できる設計”を作るための思考整理ツールです。

設計意図を可視化する「翻訳表」

もう一つの役割は、設計者の頭の中にある“前提”を明文化することです。

たとえば——
「この厚みは強度余裕2倍で設計している」
「このトルク値はシール性と応力のバランス点」
といった、設計者自身が暗黙的に理解している判断基準。

FMEAにこれらを整理しておくことで、品質保証や生産技術のメンバーも
「なぜこの設計になっているのか」を共有できます。

結果として、設計変更や不具合対応の際にも議論が早く、根拠が明確になります。
つまり、設計FMEAは設計意図を翻訳してチームで共有する仕組みでもあるのです。

設計力を鍛える“鏡”として使う

最終的に設計FMEAは、単なる文書ではなく、
設計者が自分の思考の抜けや曖昧さを確認する“鏡”のような存在になります。

「どの条件で壊れるか」「それをどう制御するか」を整理することで、
設計判断の精度が上がり、レビューでの説明も論理的になります。

設計FMEAを現場に根づかせるための3つの運用ポイント

設計FMEAは、作成した時点では完成ではありません。
どれだけ丁寧に書いても、運用方法を誤ると「提出用の書類」に戻ってしまいます。
現場で生きるFMEAにするためのポイントは、
「思考を共有する」「評価を統一する」「更新を仕組みにする」の3つです。

① 思考の共有を目的にする:書くことより議論すること

FMEAを記入する行為そのものよりも重要なのは、
チームでリスクを議論する時間です。
設計者一人で表を埋めると、どうしても主観的なリスク認識になります。

一方で、品質保証・生産技術・調達などが加わると、
「想定していなかった使用条件」や「実際の製造限界」が見えてきます。

設計FMEAは、“個人のチェックリスト”ではなく、
設計判断をチームで可視化する対話の場として使うのが理想です。

議論の過程で得られた仮説や判断根拠こそ、
FMEAに記録すべき「価値のある情報」です。

② 評価の基準を統一する:S・O・Dを共通言語にする

FMEAで形骸化が起きやすい原因のひとつが、
重大度(S)・発生頻度(O)・検出性(D)の評価が人によってバラつくことです。

「重大度7とはどのレベルか?」
「発生頻度4は何件に1回か?」

——この基準があいまいだと、RPNの意味がなくなります。
したがって、FMEAを組織で使う際は、
S・O・Dの基準を文書化しておくことが必須です。

さらに重要なのは、評価を一度で完結させないこと。

  • 設計変更
  • 試験結果の反映
  • 新材料・新構造の採用

といった変化のたびに、点数を見直す運用ルールを設けます。
数値の妥当性を保つことは、FMEA全体の信頼性を支える基盤です。

③ 更新を仕組みにする:FMEAを動かし続ける

設計FMEAは「一度作ったら終わり」ではありません。
新しい知見を反映し続けることで価値が出る“動的なドキュメント”です。

特に次のような変化があったときは、
必ず再評価と更新を行うべきです。

  • 設計変更(構造・材料・仕様)
  • 新規製品や派生設計の開始
  • 試験・市場・クレーム情報のフィードバック

更新を担当者の判断に任せると、どうしても後回しになります。
そのため、定期レビューの仕組みとしてFMEA更新を組み込むのが現実的です。

たとえば「四半期ごとに主要製品のFMEAをレビューする」など、
プロジェクト管理上の定常業務に組み込むと継続しやすくなります。

また、過去のFMEAをアーカイブとして蓄積しておけば、
新製品開発時に「類似リスクの再利用」が可能になります。
これにより、経験値を個人の知識から組織の知識へ転換できます。

ミラリンク代表
佐取 直拓

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まとめ:設計FMEAは“判断の質”を高める鏡

設計FMEAは、設計が正しいことを証明するための帳票ではありません。

それは、設計者がどこまで考え、どこに仮定を置いているかを明らかにするための思考の整理手法です。
図面や仕様書は形を示しますが、「なぜその形になったのか」という理由までは伝えられません。

設計FMEAは、その裏側にある判断の経緯を記録し、設計意図を共有する仕組みです。

設計段階で潜むリスクを想定し、因果関係を明確にすることで、
設計を“勘”ではなく“根拠”で語れる状態にします。
FMEAを形だけで終わらせてしまえば、単なる提出用の書類です。

しかし、設計変更や試験評価の際に自然と参照されるようになれば、
それはもはや手法ではなく“設計文化”です。
設計を見直すたびにFMEAを更新し、知見を積み重ねることで、
品質は個人の経験から組織の知識へと進化していきます。

FMEAの目的は、完璧な設計を作ることではなく、
設計をより深く理解し、説明できる状態にすることです。

どの条件で成立し、どこにリスクがあるのか。
それを言葉で示せる設計こそが、信頼される設計です。

設計FMEAは、設計を守る帳票ではなく、
設計者の判断力を磨き、品質を思考で作り込むための鏡です。

以上の点を踏まえ、本質的な設計FMEAの作成を実践してみてくださいね。